素直の向こうがわ【after story】
本当ならこの場ですぐにでも抱きしめてしまいたい衝動に駆られるけれど、そんなことは出来るはずもなく。
仕方なく、目の前でうなだれる文に言って聞かせることにした。
「彼女は、同じ班で一緒に学ぶ仲間。それ以上でもなければそれ以下でもない。でも、多分、こういうことっていくら言葉で説明しても無意味な事柄だろ? だから信じてくれとしか言いようがない。俺のこと信用できない?」
この言い方は卑怯な言い方だったかもしれない。
こう言えば、当然のごとく文子は違うと否定する。
それに、文子が心配してしまう気持ちも全く分からないわけでもない。
俺だって、文子が女子大なのを勝手に安心していたという間抜けな過去がある。
「それに、そんなに心配しなくたって俺は女にはモテないよ。気の利いたことを言えるわけでも何か面白味のある性格でもないし。それに、俺って無表情なんだろ?」
そう言うと、何かを言いたげな表情をしたが結局文子は黙ったままだった。
文子の方がよっぽど心配だってこともきっとこいつは分かってない。
どれだけいつもやきもきさせられているか。
俺のような勉強漬けの毎日と違って、文子の周りの環境は華やかだ。
いくらでも、いろんな機会が転がってる。
俺なんかよりよっぽど垢抜けた男たちが周囲にゴロゴロといるのだろう。
俺はそんなことを思い、息を吐く。