素直の向こうがわ【after story】
背中をさするように抱きしめて、いつの間にか伸びていた長い髪に手を差し入れ後頭部を掴む。
うっすらと開かれている口の下唇を啄ばむようにキスをする。
その柔らかい感触に何度も繰り返してしまう。
でも、それだけでは足りなくなってもどかしさが俺を急き立てる。
いつもは見せない顔を見たくて、いつもは聞けない声を聞きたくて、追い詰められるように今度は深く深くへと唇をこじ開ける。
それまで中へと入り込むのを耐えていたキスからの突然の刺激に、文子が身体をびくつかせた。
そんな反応も全部、俺が見たいもの。
貪るようにキスを繰り返せば、次第に文子から力が抜けて行く。
この空間の薄暗さが余計に俺を駆り立てる。
静かな部屋の中に響く控えめな喘ぎに、とめどなく欲情する。
気付けばその身体を押し倒していた。
俺を見上げる息の乱れた文子の顔を見れば、どこもかしこも俺のものにしたくなる。
それでも、この場で押し倒したのは最後に残る一滴の理性からだ。
ほんの少しだけ。
ほんの少し触れるだけ。
そう自分に釘をさすためだ。
こんな場所で抱いてしまうわけにはいかないから。