素直の向こうがわ【after story】
こうやってずっと抱きしめていたい。
ずっと一緒にいたい。
勝手に溢れて来る想いから、つい文子の身体に回す腕の力が増してしまう。
「……今度は、二人でどこか行こう」
好きだと伝える代わりにそんなことを囁く。
「渉君に嫉妬するなんて、どうかしてる」
くすくすと笑い声が漏れる。
「違う。嫉妬じゃない。そんなこと言ったらおまえだって。不必要な心配しただろ」
かなり無理のある反論をして誤魔化す。
「多分、私のは不必要のじゃない……」
「ん?」
ぼそぼそとした小さな声だったからあまりよく聞き取れなかった。
「ううん。なんでもないよ……」
そう顔を埋めたまま言って、俺の背中にきつく腕を回して来た。
「好きだよ。誰にも負けないくらい――」
文子の言葉が俺の胸を甘く疼かせる。
そんなことを言って、どれだけ煽れば気が済むのか。
大きく息を吐いて、文の髪に顔を埋める。
「人の気も知らないで……」
「ん……?」
「もういいよ。おまえには降参」
どれだけ強く抱きしめてもわずかな隙間にもどかしくなる。
愛しいと思う気持ちが加速する。
腕の中にいる文を笑顔のままでいさせたい。
この先もずっと……。
愛しさから弱くなる自分。
想いの大きさから不安になる自分。
理性も理屈も超越してしまう衝動に駆られる自分。
文子と出会って知る、これまで知らなかった自分。
この先も、初めては全部君とがいい――。
――心配性な彼女 終――