素直の向こうがわ【after story】
「理香にも声かけた?」
私の大学での一番の友人は理香だ。
この日は同じ授業を取っていなくて顔を合わせていない。
「理香? ああ、なんか今日都合悪いんだって。残念」
「ふーん」
由紀ちゃんは私の目は見ずにそう答えた。
なんだか少し気にもなったけど、理香には理香の都合もあるのかもしれない。
たかがカラオケくらいで慎重になっている自分が少し滑稽に思えた。
大学一年の時からの癖だ。
些細なことでも徹に余計な心配をさせたり、気にさせたりするようなことをしないようにして来た。
徹がうるさく言って来たわけでもないのだけど、自分自身でそう決めていた。
それはやっぱり、航のことがあったからかもしれない。
「じゃあ、六時にこのお店に直接集合ね。よろしくー」
そう言ってメモを私に渡すと、由紀ちゃんは手をひらひらとさせて去って行った。
このカラオケが、とんでもない会だったということに、行ってみて初めて気付くことになる――。