素直の向こうがわ【after story】
指定されたのは都内のターミナル駅近くにあるカラオケ店。
そこは高級感漂うVIP専用とでも言った感じのカラオケルームだった。
由紀ちゃんって、一体……。
部屋番号を知らせるメールが由紀ちゃんから届いていて、その部屋へと直接向かう。
すれ違う人が皆どこかセレブ感いっぱいで、大学生の私は場違いだ。
特に今日は、ジーンズに白のカットソーと言うカジュアルな服で、余計に落ち着かない。
なんとか部屋にたどり着き、約束の六時ちょうどにその部屋のドアを開けた。
「あーっ、待ってたよ! 文子ちゃん」
第一声は、誰かも知らない声。
それに――。
その声は明らかに女のものではなくて。
部屋を見渡してみれば、由紀ちゃん以外に私の知っている人なんていなかった。
それどころか、半分は男だった。
「由紀ちゃん、これ、どういうこと?」
私はそれ以上部屋の中に進めなくて、その場で固まったまま険しい視線を向けた。
「ああ、ごめんね。由紀を責めないで。俺らが頼んだの。文子ちゃんどうしても呼んでほしいって」
「私、あなたのこと知らないんですけど」
その男は、明るい茶髪で耳には小さなシルバーのピアスをしていた。
白いシャツにブラックジーンズと言ういたってシンプルな服装なのにとても垢抜けている。
多分、身につけているもの全部がいいものだから。それは一目で分かった。
軽々しく『文子ちゃん』なんて言われて、気分が悪い。
「由紀と話してるところ見かけたことがあって。それで頼みに頼み込んで連れて来てもらった」
意味が分からない。
こんなの、おかしい。
「ごめん。文子。文子ガード硬いって有名だったから、こうでもしなくちゃ来てもらえないと思ってさ。そんなに怖い顔しないでよ」
「そんな……。酷いよ、由紀ちゃん。私、帰る」
頭にきて、そのままドアノブに手を掛けた。
「待って。少しでいいから。俺に付き合ってよ」
その男が私の腕を掴む。
その動きの早さに呆気に取られた。
色白の女の子のように透き通る肌のその男は、その容姿からは考えられないほどの強い力で。
そして、中性的で妖艶な笑顔で私を見下ろしていた。