素直の向こうがわ【after story】
改めて部屋を見回して見る。
こちら側には奥から由紀ちゃん、タクヤ、私、そして色白男。
向かい側には、一組の男女がこちらにはお構いなしにじゃれ合っている。
なんなの?
そもそもこの人たち誰なのよ。
「文子ちゃんは、そうだな。モスコミュールって感じかな」
何も答えない私に気にすることもなく、既に勝手に注文していた。
「自己紹介が遅れました。俺は、S大3年のフジナミケント。よろしくね。由紀とは同じテニスサークルなんだ」
ここで無言でいれば呆れて解放してくれるだろうか。
とにかく帰る隙を見計らおう。
私は頑ななまでに無言でいた。
それなのにフジナミケントは一方的に喋り続ける。
「文子ちゃんってさ、ホントそそるよね。その凛とした目とか、男に媚びない雰囲気とか。そうやって拒絶されればされるほど、燃えるな」
それは、私の態度への反撃だろうか。
だいたい、なんで私のこと知ってるのか。
私は一目見たことすらない。
遠くから見たことあるくらいでこんな真似をするなんて、女は落とすことに目的があるゲームの駒ってことか。
未だにこんな男に目を付けられるなんて、あのちゃらんぽらんだった頃の自分の何かがまだどこかに残っているのだろうか。
必死に真面目に生きてるつもりでも消せない何かが滲んでしまっているのかと、どこからともなく虚しさと悲しさが込み上げて来る。
由紀ちゃんのあんなにも怪しかった誘いにのってしまった自分に後悔しかない。
俯いてため息を吐くと、部屋のライトが落とされた。