素直の向こうがわ【after story】
あの子は――。
徹の大学に行った日に、徹の隣を歩いていた子。
女の勘って、本当に不要だと思う。
どうして、なんとなく気付いてしまうのだろう。
何の根拠もないし確証もない。
なのに、感じてしまうのだ。
きっと、あの子は徹のことを好きだ――。
少なくとも何かしらの特別な感情はある。
一目で分かった。
徹を見上げる目、私を認識した時の表情。
全てが彼女の心を物語っていた。
徹は気付いていなかったみたいだけど。
何年間も徹を想い続けていた脇坂さんの気持ちさえ気付いていなかったのだ。
彼女の気持ちに気付かなくても仕方ないかもしれない。
気付いていないからこその不安。
どうすることもできない『毎日徹の傍に彼女がいる』という事実に、私は不安で不安で仕方なかった。でも、私に出来ることは信じること。それしかない。
そう言い聞かせたけど。
川名さんと徹が二人で並んで歩いてる。
その光景に、私は今、自分が置かれている状況を忘れて固まった。
小柄な川名さんが一生懸命に徹を見上げて話している。
彼女の頬がほんのり染まっていて、緊張しながらも嬉しさが滲み出てしまっている。
そんな川名さんの話を、小柄な彼女に合わせて身をかがめて聞いている徹。
そこには微笑ましいほどにお似合いの姿があった。
川名さんも真面目そうなどちらかと言えば地味目な子。でも、小柄で可愛らしかった。
並んで歩く二人の間には遠慮がちな距離がある。それが余計に私の胸を締め付ける。
一方で私は、見るからに軽薄そうな男に会ったその日に腕を掴まれてる。
その違いに、足元から崩れ落ちそうになるほどに傷ついていた。
その違いを見せつけられているようで、思わず徹たちから顔を逸らした。