素直の向こうがわ【after story】
「どうしたの? あの男、知り合い? 声かけないの?」
私の腕を離そうともせずに、私の顔を覗き込んで来る。
その目は怪しく光っていた。
こういうことに目敏そうな男だ。何かを察したに違いない。
「もしかして、好きな男とか?」
何も答えない私に、畳みかけるように言葉を続けた。
「でも、あの男、女いるみたいじゃん。それに、あの男と君じゃ合わない気がするな。君には俺みたいな男の方が合うと思うよ。だから、さっさと忘れちゃいな」
何を見当違いなことを言っているのだろう。
でも――。
どうしてこんなに胸が痛いのか。
こんな男の言葉に心が動かされていることが悔しい。
私と徹には積み重ねて来た時間がある。
ちょっとやそっとじゃ崩れない固い絆がある、あると思ってる。
私でいいって、私がいいんだって、徹は言ってくれてる。
「……うるさい。うるさい!」
気付くと目から何かが流れてる。
それを涙だとは思いたくない。