素直の向こうがわ【after story】
「……もしかして、泣いてる? あの男、マジだったの?」
私を見つめて来る男の目から、先ほどまでの人をからかうような色が消えていた。
「……私、そんなに遊んでもよさそうな女に見えるの? 一目見ただけでそういう風に見える? でも、あんたにはそう見えたって私は違うから。そんなんじゃないから!」
腕を振り払おうとしても掴まれた腕はびくともしない。
そのことに悲しいほどに虚無感に覆われた。
腕を引いた時に、その腕を引っ張られ身体のバランスを崩した。
私の身体をこの男に抱き寄せられていた。
「やっ!」
「……違うって。一目惚れだよ。こっちだって君と遊びの関係なんか求めてないよ。さっき言っただろ? 君に会うためにどれだけかかったかって。君の雰囲気に惹かれたんだ。一目見て忘れられなくなった」
さっきまでと違う低い声。
くぐもった声。
「そんなの――」
「嘘じゃないよ。信じられないなら、信じさせるまでだ」
そう言うと私を抱きしめる腕の力が増した。
夜のターミナル駅。
多くの人が行き交う。
徹の背がどんどんと遠くなる――。
「やめてっ!」
私が精一杯の力で押しのけると、思ったより簡単に男は私を離した。