素直の向こうがわ【after story】
(待てよ。何か、あったのか?)
慌てたように私を呼び止めた。
(どうして?)
ちゃんと言えばいい。いつもの私ならこんなことしない。
ちゃんと見たことを見たままに言って、その真意を問えばいい。
それなのに、今日の私はそれが出来なかった。
(なんか、元気ない。どうした?)
(別に何も)
徹が言わないのなら私だって何もない。
(いや。いつもと明らかに違う。そんなことも気付かないと思ってる? 俺に言えないこと? 心配になる)
(徹には関係ない!)
徹の気遣うような声に、気付くと私は声を荒げていた。
何も言えないのに怒るとか、本当に私サイテーだ。
分かっているけど、心が言うことを聞かない。
少しの沈黙の後、徹のいつもより冷たくなった声がした。
(――分かった。そんなに話したくないならいい。じゃあ)
無機質な電子音が延々耳に届く。
私が馬鹿だってこと。
私が悪いってこと。
全部分かってる。
でも、この夜は、心に悲しく寂しい風が吹き抜けて仕方なかった。
素直になれなかった。
大好きでいちばん近くにいるはずの徹が、とっても遠かった。