素直の向こうがわ【after story】
「文子、酷い!」
次の日、大学で顔を合わせるなり由紀ちゃんが私のところにすっ飛んできた。
それは、こっちの台詞だ。
謝るどころか文句を言って来る由紀ちゃんに軽くめまいを覚え、責める気もなくして無視して空いている席に着く。
「ちょっと、聞いてるの? 昨日黙って文子帰っちゃうから、ケントさんも追いかけて出て行ったまま帰って来ないし、だからタクヤさんも帰っちゃうし。あれで、男の気を引いたつもりなの?」
怒りが収まらないのか勝手に私の隣に座り込み、声を張り上げている。
その表情は、ばっちりメイクが浮いてしまいそうなほど怒りに満ちていた。
私は無言のまま睨みつけた。
「文子ってそういうのが狙いなんでしょ。ガード固くして希少価値高めてさ。それで『私は他の子とは違うんです』みたいな顔して、でもそれって結局男の子を誘うためでしょ? 私は真正面から頑張ってるの。文子のせいでせっかくのチャンスも台無しだよ。サイアク」
この子、私がどれだけ今怒っているか、どれだけ機嫌が悪いか、どれだけへこんでいるかに思いを馳せることもないのだろう。
「ちょっと、どうしたの? 朝から騒いで」
理香が由紀ちゃんとは反対側の私の隣に座る。
「理香には関係ない。黙ってて」
その言葉に、私の中で何かが切れる音がした。
「ふざけないで。人を騙すように呼んでおいて、そんなこと言える立場なの? 私はクラスの親睦会だと思ったから行ったんだよ? 由紀ちゃんのそんな狙いなんて私は知らない」
もういい加減にしてほしい。