素直の向こうがわ【after story】
「文子には私の気持ちなんて分からないよ。本当に好きな人が出来たらどんな手を使ってでも手に入れたいと思う。友達に嫌われたって使えるものは利用する。それくらい必死なの」
そんな話は今していないのに。
でも、その言葉が私に重く突き刺さった。
「それは、ケントさんも同じだったんだよ。ケントさん、半年も前から私に頼んでた。文子に会わせてって。でも文子はそういうの嫌いそうだから私もずっと断ってた。ケントさんだって必死なの。遊びで落とそうとかそういうんじゃない」
「ちょっと、ちょっと待ってよ。文子には彼がいるよ。大事な人がいるんだから。由紀、余計なことしちゃだめだって」
黙って私たちを見ていた理香が由紀ちゃんの言葉を遮った。
「彼がいようがそんなの関係ないでしょ。好きになるのは自由だよ」
由紀ちゃんの迷いもない発言に、私の気持ちはふさぎ込んで行く。
川名さんが同じように考えたら?
どうしても徹を手に入れたいと思ったら?
これ以上由紀ちゃんの言葉を聞きたくなかった。
今はとても徹が遠い。
徹の近くにいるのは私じゃない。
私はこれから授業が始まると言うのに、逃げるように席を立った。
どうして私が由紀ちゃんから逃げなきゃいけないのか。
そんな弱い自分にも悔しくて、でも、どうしても逃げ出したかったのだ。