素直の向こうがわ【after story】


川名さんは間違いなくただのクラスメイトでただの同じ班の仲間。

それは彼女だって同じこと。

だから異性という意識はお互いにない。男も女もなく友人だ。

でも、それは俺自身では分かり切っていることでも、文子からすれば俺と同じように思えないということも理解できる。
それは、俺が文子の立場になって考えればすぐに分かることだ。


だから――。

嘘をついたつもりはない。
でも、ほんのわずかだけグレーに近いかもしれない。


昨日、たまたま居合わせた男友達3人と大学近くのラーメン屋に寄った。
ラーメン屋なんていうのは食べ終わってまでぐだぐだといる場所じゃない。

食べ終わった俺たちは、帰る方向が皆バラバラだから駅で別れた。
まだ少し時間があったので、専門書が数多く取り揃えられている大型書店に寄って帰ろうと考えた。
それで大きなターミナル駅で途中下車したのだ。

そのホームで、川名さんとばったり会った。


「河野君」

「川名さん、家、この辺だったっけ?」


俺は、知り合ってそろそろ半年を過ぎようとする彼女がどこに住んでいるかも知らなかった。


「ううん、家は千葉なんだけど。この駅に大きい書店があるって聞いて、ちょっと行ってみようかなって。それで来てみたんだけど」


それが、今から俺が行こうとしている書店だと気付いた。

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