素直の向こうがわ【after story】
「いつも、ごめん。いっぱい我慢させて」
そんな俺の言葉に、表情をぱっと変えて身を乗り出して訴えて来た。
「何言ってんの! 私は河野と一緒にいられればそれが一番嬉しいし。我慢なんてしてない。こうやって隣にいられるだけで、ホント、もうありがたいくらいで……」
その必死で真剣な目に胸がドクンと鳴った。
耳には打ち寄せて来る波の優しい音。
そして二人に吹き付ける優しい風。
そしてオレンジ色に染まって見えるその目に吸い込まれそうになって、自然と柔らかい頬に手を添えた。
「河野……」
目を見開いてそう呟く小さな唇に、そっと触れるだけのキスをした。
唇から伝わる温もりに、幸せを感じる。
いつか、校舎裏で乱暴にしたキスとは全然違う。
ただそっと触れただけなのに、胸が一杯になる。
そっと目を開けて松本を見ると、閉じた目尻から涙が零れていた。
その涙の理由は分からない。
でも俺の心を甘く切なくさせるのには十分で。
必ず合格するから。
あと少しだけ待っていて――。