素直の向こうがわ【after story】
授業の間も、ポケットに入っているスマホが気になった。
もしかしたら――。
(昨日はごめんね)
とか
(本当は、こんなことがあった)
とか、メールでも送られて来るのではないかと勝手に期待して待っていた。
でも、何度確認してもそんなメールは届かない。
「河野君、どうかした?」
「なにが?」
昼休みの学食で、向かいに座る川名さんから声を掛けられた。
「さっきから全然ご飯減ってないけど……」
そう言われて自分の皿を見る。
もうそろそろ次の授業へと向かわなければならないのに、それは半分も減っていなかった。
「ああ。急がないとな」
俺は慌ててかきこんだ。
何も言ってこない――。
おそらくそれが文子の俺への意思表示。
そう思えてならなくなった。
そう一度思ったら。
多分、直接会わないと解決しない。
顔を見て話さないと何も分からない。
それだけが明確な答えとしてはじき出される。
「ごめん。ちょっと俺、帰る」
トレーを手にそう言うと、友人たちが何か言うのにも答えずに歩き出していた。
文子に電話を掛けてみても出なかった。
電話に気付かないのか、それとも――。
俺は一度も行ったことのない文子の大学へと向かう。
女子大に行くなんて考えただけでも頭が痛くなるけれど、どうしても文子に会いたかった。
少しの時間も待てなかった。
おそらくまだ授業は終えていないはず。
頭でそれだけを確認し文子の大学へと急いだ。
どうか、上手く会えますようにと――。
そうして、たどり着いたのに。
俺の目の前にある光景に、立ち竦む。
「文子……」
俺の知らない男と文子が二人で立っていた。
それも、その腕をその男に掴まれていた。
背が高く垢抜けたその男の、文子へと向けられた真剣な表情が俺の視界に飛び込んで来る。
俺への態度が昨日硬かったのは、
そういうことだったのか――?
脳裏を掠めるその思考を必死で否定する。