素直の向こうがわ【after story】


「は?」


俺は男の腕を振り払う。
相対した男は、細身で長身のモデルのような男だった。
頭からつま先まで計算されたような服装に、俺との違いを見せつけられる。


「あんたさ、そんな真面目そうな風貌して二股? 人は見かけによらないな」


早く文子を追いかけなければと思っているのに、耳に入って来た言葉に俺はもう一度男の顔を見た。


「二股? 何を言ってる? だいたいそちらは……」

「俺? 俺は文子ちゃんを一途に想ってる男だよ。昨日の夜も一緒にいた。あんたみたいにあっちもこっちもなんてことはしないよ」


ふざけたことを言っていると思ったら、その目が真剣なものに変わった。


――昨日の夜も一緒にいた。


その言葉が俺をグサグサと切りつけて、そして試して来る。
文子を信じることが出来るかどうか。


「だから、文子ちゃんは俺がもらうから。あんたは昨日の子のところに戻りな」


さっきからこの男の吐く言葉の意味が分からなかった。
ただ、この男が文子のことを好きなのだということだけは分かった。
おそらく、冗談なんかではない。

だから、俺もはっきりと告げた。


「そんなことはさせられない。文子は俺にとって大事な人だ。諦めてくれ」


誰が文子を好きだとしても関係ない。


もしかしたら、この男の一方的なものではないかもしれない……。


そんな考えが俺を覆い尽くそうとするけど、でも俺がここで折れるわけにはいかないんだ。
やっぱり俺は文子を信じている。

それに、文子を失うなんて出来ない。
そんなこと、考えられない。


「彼女を泣かせておいてよくそんなことが言えるな。昨日、文子ちゃんあんたを見て泣いてたよ」

「……え?」


昨日……?


「あんた、××駅で他の女と歩いてただろ。それを俺たち見たんだ」


昨日の文子との電話の会話がすぐに蘇った。
すべてが繋がった。

俺と川名さんが一緒にいたところを文子は見たのだ。

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