素直の向こうがわ【after story】


「申し訳ないが、あなたと話をしている時間はない。あなたがどれだけ文子のことを想おうと、俺には関係ない。ただ、俺は文子のことを誰よりも想ってる」


もう俺は後ろを振り返らなかった。
女心を汲み取ってやる術もなく、気の利いた言葉もかけてやれない俺が出来ることなんて、一つしかない。

文子を信じてただ真っ直ぐに想いを向けること。


走りながら文子のことだけを考える。
必ず捕まえて思い知らせてやるのだ。


何度も文子の番号に電話をかける。
文子は絶対に何も言わずに俺から去ったりはしない。

なんの根拠もない確信。

五回目のコールでやっと出た。


「今、どこだ!」


電話の向こうから、今にも泣きそうな声が聞こえた。


「今から行くから、そこで待ってろ」


文子は俺の言葉から耳をふさいだりしない。

< 94 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop