素直の向こうがわ【after story】
「申し訳ないが、あなたと話をしている時間はない。あなたがどれだけ文子のことを想おうと、俺には関係ない。ただ、俺は文子のことを誰よりも想ってる」
もう俺は後ろを振り返らなかった。
女心を汲み取ってやる術もなく、気の利いた言葉もかけてやれない俺が出来ることなんて、一つしかない。
文子を信じてただ真っ直ぐに想いを向けること。
走りながら文子のことだけを考える。
必ず捕まえて思い知らせてやるのだ。
何度も文子の番号に電話をかける。
文子は絶対に何も言わずに俺から去ったりはしない。
なんの根拠もない確信。
五回目のコールでやっと出た。
「今、どこだ!」
電話の向こうから、今にも泣きそうな声が聞こえた。
「今から行くから、そこで待ってろ」
文子は俺の言葉から耳をふさいだりしない。