素直の向こうがわ【after story】
「おまえは? 俺のことは信じられないか?」
文子の目が翳る。
おそらく昨日見たという俺と川名さんの姿。
俺が黙っていたから余計に苦しませたのだろう。
「昨日のこと黙っていて悪かった。余計な気をもませたくないと思ったのが、余計に傷付けた。本当にすまない。でも、おまえが心配するようなことは何もない。あの駅でばったり会って、少し道案内をしただけだ」
真っ直ぐに見つめる。
人を信じることは容易くない。
信じたい相手ほど信じるのは難しいのかもしれない。
そのことがもどかしい。
でもいくら難しくてもしんどくても、信じてほしいと思う。
心から大切に想う人が信じてくれないというのは、やっぱり辛い。
「……徹が、昨日のこと言ってくれなかったことがショックだった。それが不安でたまらなくなった。昨日見た二人の姿がとてもお似合いで。だから、余計に秘密にされたことがショックだったの。でも、ごめん……」
その小さな肩を揺らす。おそらくまた泣いている。
どんなに大切に想っているつもりでも、こうして涙を流させてしまう。
そんな自分が不甲斐なくて悔しい。
「これから先も不安はあると思う。また俺は間違えておまえを傷つけるかも。でも、そのたびに逃げずに向かい合いたい。だから、おまえもちゃんと俺にぶつけてほしい。知らないところで傷付いたり苦しんだりしないでほしい。そして、やっぱり――」
俺は文子の肩を掴み、しゃがみこんで目線を合わせた。
「俺のこと、信じてほしいと思うよ」
涙に濡れた目がゆらゆらと揺れて、また溢れさせる。