素直の向こうがわ【after story】
「徹……。ごめん、何もなかったフリして徹を試したりした。卑怯な真似した」
「俺が黙ってたからだよな。だけど、もうああいうのはやめよう。お互いに。俺も必ずおまえに真意を確かめるから。おまえに直接」
失敗しながらもぶつかりながらも、それでも二人でいたいから。
「……あの人とは、昨日出会ったばっかりなの……」
ベンチに座る文子の手を握り締める。
ぽつりぽつりと話し出した文子を見守る。
「クラスの子に、親睦会やるからって言われてカラオケに行った。でも、行ってみたら親睦会でもなんでもなくて、合コン? みたいなものだった。でも、それはそのクラスの子にさっきの人が私を連れて来てって頼んだみたいで……」
その後の説明を、文子は言い淀んだ。
つまりは、あの男がどこかしらで文子を見て会いたかったから知人を介したということか。
「一目惚れされた、とか?」
俺がそう言うと、文子は顔を赤くして俯いた。
それは、図星ということか。
少し、胸が軋んだ。
「よく分からない。私はあの人のことなんて知らなかったし、会ったことも話したこともない人だからそんなこと言われても理解できないっていうか。からかわれてるだけかも。とにかくそういうことだから、私はあの人と何かあるわけじゃないの。私だって何がなんだか分からないくらいだから」
そんなことがあったとしても、何も不思議じゃない。
むしろいつかはそんなことがあるだろうとも思っていた。
文子はとても魅力的だ。
俺には勿体ないくらいに。
自分では全然分かっていないみたいだけど。