イケメン双子と、もれなく『腐』の付く残念女子と。

「え? 桂花ちゃん、なんて言ったの? 最後のほう、わたし聞き取れなかった。ごめん、もう一度言ってくれ――……え? 別れた女って、それって」

「凛の元カノよ。ほんと図々しいったらないよね、こそこそ嗅ぎまわった挙句、こんなところまで押しかけて来るんだから」

――凛の元カノ

 hacchi嬢の科白に碧羽は愕然となった。これまで凛の自堕落ぶりは、散々兼ねがねすこぶる噂を耳にしてきたが、それでもどこか他人事のような実感の持てない事柄であったのだ。

 けれどもhacchi嬢の口から現実を聴かされ、あまつさえロビーにまでやって来たなどと……。いよいよと現実味を帯びた状況に、碧羽の胸裡は理解するための処理機能が追いつかない。

(あれ……まただ。凛の元カノのこと考えたら、BL読んでるときみたいに胸がチクチクする)

 碧羽はまだこの時、自身の胸懐(きょうかい)で少しずつ育つ『恋の芽』の存在に、気づくことはなかった。

 だがこの瞬間、碧羽が己の気持ちを悟ってさえいれば、あるいは――

 いや、現時点で来し方行く末など語っても仕方あるまい。取り敢えずは先を進むべきであろう。
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