イケメン双子と、もれなく『腐』の付く残念女子と。
だがどうして、少女がひとり、そのような無謀なことを実行に移したのであろうか。そこにもまた、聞くも泪語るも泪の笑える出来事があったのだ。
* * *
梅雨が明け、本格的な夏到来の七月未明のある日のこと。
碧羽はいつものように、自室の隣に位置するBLライブラリーに、読み終わったコミック本を仕舞うため足を踏み入れた。
そこである異変に気が付いた。得も言われぬ、やんごとなき異臭……まるで湿気た野良犬の如し、その芳ばしくもかぐわしい鼻を突く臭い。
その正体のもとは容易に想像がついた。今年の梅雨は長雨で、日照りは少なく湿度もすこぶる高い。梅雨が明けると凶悪な陽射しと気温。
これはまさしく本に発生したカビ……サイエンティストが泣いて喜ぶ、微生物を培養するのに適した、理想的な温床環境。
(これは―――ッ!)
碧羽は、即座に臭いの元凶……特に据えた臭いがする、ウォークインクローゼットに飛び込んだ。
(うッ……く、くさッ……!)
大量のコミック本から発せられる、すくすくと育ったカビルンたち。
想像を絶する芳しさに一瞬心折れそうになるも、なんとか我に返った碧羽は、身近な一冊を手に取ってみた。
パラパラと適当に捲ってみると、やはりコミック本は梅雨時の湿気を含み、ぶよぶよと波打っている。
触ってみるとざらざらとしていて、明らかにカビに侵されているのが窺えた。