イケメン双子と、もれなく『腐』の付く残念女子と。
碧羽がサロンメニューをこなしているあいだに、凜たちはウェイティングルームのソファで優雅に紅茶を飲んでいた。
このヘアサロンは、著名な作家や画家や音楽家など、第一線で活躍するゲストが名を連ねており、充実したサービスが受けられることでも人気を博している店である。
噂によると、この翡翠ヶ丘出身のBL漫画家『蒼生 ちはや』も、お忍びでやって来るそうなのだが、そうそう上手く遭遇できるものでもないだろう。
凛と漸は、碧羽を腐の道へと誘(いざな)った元凶でもある漫画家に、ひと言文句を言ってやらねば気が済まないという、腹に据えた憤懣をぶつける機会を窺ってもいたのである。
それは明らかに『逆恨みですよ』とつっ込むべきところではあるが、身体を張ってリアルBLゴッコを再現させられた男の身からすれば、つっ込むこと自体が憚れるワードなのかも知れない。
ここは武士の情けで目を瞑ってやるかと語りつつ、はなしは凜と漸の優雅なイレブンジスへと移る。
「このサブレおいしいねえ。どこのだろ? あとで聞いてみよ」
「あ? んな甘いもん、一々よろこんで食ってんじゃねえよ。つか聞くなよ、ンなこと。女かよ」
「なに言ってるの。僕が甘いものすきなの、漸も知ってるでしょ。それに、これおいしいから碧羽にも食べさせてあげたいんだよね」