騎士団長殿下の愛した花
「戦の神も連日の皆の活躍にお喜びだ。より一層の働きを期待している」
「あぁ……聖女様」と、誰かが零したその声にずきりと胸が痛んだ。
(エリューシオスなんて神様居ない。私も聖女なんかじゃない、こんな偉そうな口調で喋るような立場じゃない……)
でもこれが、私の役目だとお母様に言われたから。皆のために戦えない役立たずな自分ができる事だから。
「……神に代わり、本日も私から祝福を与う」
名前を呼ぶとヤーノが進み出てきた。フェリチタの横に跪き、掲げられたのは──白い1羽の鳥。
まだ生きている。ただヤーノの膂力(りょりょく)には抗えないようで、頸(くび)を掴む彼の手から逃れられないと悟ったのか動きは鈍い。
サーベルの柄にやった手が震える。
(本当に、なんで、こんなことをしなければいけないの?『奇跡』なんて本当に必要?)
抜こうと込めた力に指が真っ白になった。
(慣れる訳ない、こんなの。
ねえ、おねがい、たすけて)
「──」
無意識に零れたのは、きっと誰かの名前。
……誰?私は今、誰を呼んだ?
訳もなく息が詰まる。どくどくどく、と身体が脈打つ。
浅くなる呼吸。
頽(くずお)れそうになったその時、ヴェール越しの視界をぱっと舞った白い羽が遮った。
「え……?」
呆然とするフェリチタの、そして戦士たちの頭上を脇目も振らず羽を散らしながら飛び去っていく白い鳥。
僅かな空白の後、血の気の多い数人が剣を引き抜いて立ち上がった。
「ヤーノ……ッ!お前、自分が何をしたかわかっているのか!」