騎士団長殿下の愛した花
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戦場に轟く怒声に罵声。戦士達の呻き声、苦しげな馬の嘶き。濃厚な血の匂い。
剣と剣がぶつかる金属音が悲鳴のように耳障りに響く。
後方で指揮を取りながら、陣営の方に引き摺られてくる怪我人の数に歯噛みした。
(夜明け前の奇襲は成功したはずなのに、それでもこれか……酷いな、予想以上に負傷者が多い。これではろくな戦術もとれない)
「団長!陣形が崩れていたので私の判断で一旦引かせましたが、よろしかったですか」
急いで来たのだろう、息を荒らげたドルステに頷く。彼の顔も土と血に汚れている。
「前方の状況は」
「芳しくはありません。怪我人の数が多いのももちろんですが、重症の者が多く治療をしても戦線に戻れないため、少しずつ押されています」
「そうか……」
レイオウルはぱっとマントを翻してドルステに背を向けた。
「後方の被害は比較的少ないから、半分程前方に回そう。僕も出る。お前は僕と交代して後方の指揮を執れ」
「いけません、団長……いえ、殿下!」
ドルステの酷く焦った声。
「僕が敵の頭を叩く。このままでは無闇に犠牲が増えるだけだからね」
「殿下、こんな事言いたくはないですけど……もし、もし貴方が討ち取られたらどうするつもりですか!」