騎士団長殿下の愛した花
「僕が一番強い。最強の騎士が今動かないでどうする?お前は昔から意外に心配症だよね」
「……だって……嫌なんですよ……!」
追いついたドルステががっとレイオウルの肩を掴む。指が白くなるほどの力で、甲冑が軋みそうなほどの強い力で。
「貴方きっと帰ってこないでしょう!いい加減わかってるんですよ、自分が生きることより、敵を確実に潰すことを優先するでしょうが!敵を倒したって、生き残らなきゃ勝利にはならないんですよ!俺は、誰より貴方に死んで欲しく、ないのに……!」
振り返ったレイオウルの表情に、一瞬呆気に取られたドルステがくしゃっと顔を歪めた。
「……そんな表情(かお)するなら、行かなきゃいいじゃないですか。俺でもきっとどうにかできます」
「行きたくないよ。でも、そういう訳にはいかないから」
「……変わりましたねえ、レイ様」
ドルステが呆れたように、少しだけ寂しそうに、酷く嬉しそうに、微笑んだ。
「そっちこそ命を棒に振る気?お前じゃ力不足だ」
「わかってますよ、理屈では。それでも俺の中の天秤に掛けた時、俺より貴方の命の方が重かったんです」
「……その考え方、今まではずっと非効率的でしかないと思ってたけど、ようやく僕にも理解できるようになったよ。理屈を塗り潰すような感情が湧き上がってくることもあるんだって」
花のように笑う少女を思い出して、レイオウルは唇に一瞬笑みを掠めさせた。