騎士団長殿下の愛した花
「まったく、大事なものがあると駄目だ、心が弱くなる。でも、自分の後ろに守っているものがあるから、逃げられない。簡単には負けられない。意地でも踏ん張れるんだ」
こちらを見据える大きな蒼穹の瞳。棚引く白銀の輝き。華奢な肢体は強く抱き締めれば折れてしまいそうで。
(フェリチタ)
しかし彼女の名前を呼ぶ機会は、もう無いのだろう。
「確かに僕は自分でもあまり帰って来れる気がしないよ。でもそれは、今までのように無茶をするからじゃない。大切なものを守るために、死力を尽くす覚悟をしているからだ」
「……なんだか、ちょーっとだけ妬けますね」
へらりと肩を竦めて笑ったドルステに、レイオウルも口の端を釣り上げて、姿勢を正した。
「あとはお前に頼みたい。お前にしか頼めない。お前の指揮があれば陣営は大丈夫、絶対に。頼りにしているよ。今までも、そしてこれからも」
王子殿下の右腕と呼ばれる青年は、忙しなく目を瞬かせる。
「自覚が無いなら改めて言う。お前だってずっと僕の大事な人だ。ドルステ=クルーデンス……僕の唯一無二の友人」
「……唯一無二の友人、ねえ……はは、くっさいなあ、レイオウル様ったら……」
笑って誤魔化そうとしたドルステの目尻から、ぼろっと大粒の涙が頬をつたって、乾いた地面に落ちた。
「ちょ、本当馬鹿なんですか、いま、泣かせないで……くだ……さ、い……よ……」
ごしごしと手の甲で涙を拭うと、いつもの彼らしい憎たらしい表情を浮かべる。
「勝って、それで、ちゃんと帰ってきてください。帰ってきて……大切な人を、フェリチタ様を悲しませないでくださいね」
まるで示し合わせたように同時に片手をあげると、ふたりは力強く拳をぶつけ合った。