騎士団長殿下の愛した花
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陣営がざわつき始めたことにいち早く気がついたドルステは近くの騎士に訊ねた。
「どうした、何かあったのか!?」
まさか殿下に何かあったのか、と焦燥に声を荒らげるドルステに対し、騎士は切羽詰まった様子ではなくひたすらに困惑顔をしている。
「いや、ええと……って言うかお前が呼んだんじゃねぇのか?」
「は……?」
「『聖女様だ!』っつって今、後方の士気は高まりまくりだぜ?ありゃ、お前の策略かと思って放っておいたんだが、」
「違う!まさか、フェリチタ様を戦場に連れて来るわけがないだろ!」
食い気味に否定したドルステは先程とは違う焦りに冷や汗をかき始めた。
「すまん、ちょっとの間指揮を頼む!」
「わ、わかった」
戸惑い顔の同僚を置き去りにドルステは愛馬で戦場を駆け回り始めた。
予想できなかったことではない。あの無鉄砲な聖女様の事だ。本当に来ているのだろう。だとすれば早く見つけて無事に帰さなくては、彼に顔向けできない。
「……っ!」
「おらぁあっ!」
思考に耽っていたドルステは眼前に迫っていた敵への反応が遅れた。
(くそっ、皮一枚ぐらいは仕方ない……!)
可能な限りの回避姿勢を取ったところで、振り上げた敵の腕からがくんと変に力が抜けた。不審に思ったもののその隙を見逃さず、馬から蹴り落とす。
ふう、と冷や汗を拭ったところで、落馬した相手の背後から現れた人影にどっと再び汗が吹き出てくるのを感じた。