騎士団長殿下の愛した花
「ふぇ、フェリチタ様……に、アエラスまで……」
剣を構えたままの姿勢だった少女は目をぱちくりとさせた。
「あれ、ドルステさんだったんですか。危ないところでしたね」
じゃあ、と言わんばかりにあっさりと踵を返したフェリチタを慌てて追いかける。
長く美しい髪をたなびかせるその姿は酷く神秘的だ。まるで彼女自身が発光しているかのように、その白銀の煌めきは土煙にも微塵もくすまない。澄み切った蒼の瞳、凛とした背筋と華奢な体型、そして生まれ持った独特の雰囲気も相まって、彼女の姿は絶筆に尽くしがたい、人智を越えた美しさであった。
今までも彼女の事は美しいと思った事はあったが、比較できないほどの。
濃密な血の匂いも、赤も、凄惨な情景さえも彼女の白を際立てるだけ。
戦場でこそ、彼女は光り輝くのだ。
(紛れもなく……彼女は戦の聖女だ……そういえば、初めて戦場で出会った時に森人の青年が言っていたかもしれないな)
ドルステは言葉を失った。騎士たちが騒ぐのも、士気が高まるのも理解できる。
(でも、あまりにも危うい)
ドルステの視線の先で再びフェリチタは剣を振るう。しかし全く防御姿勢を取ろうとしない。躱すくらいなら先に蹴落としてやろうという戦い方だ。
命への頓着を微塵も感じさせないのも、彼女の浮世離れした美しさに拍車をかけているのかもしれない。