騎士団長殿下の愛した花
ドルステは強く頭を振ると、追いついて彼女と並走しながら声を張った。
「フェリチタ様!どうかお帰りください!ここは貴女の来るところではありません!」
「それを決めるのはドルステさんじゃありません。私は、この子も、自分の意志で戦おうと決めたんです。守られてばかりじゃ嫌なんです」
「それじゃあレイ様が貴女を置いて来た意味が無いだろ!レイ様が、どれだけ、貴女のことを……!」
言葉を荒らげたドルステの横で、フェリチタが鋭く息を吸った。
「───私だって!レイが誰よりも大事で大事で大事で堪らないんです!……いなくなって、欲しくない……」
きっと彼女だってレイオウルに止められたはずだ。それでもなお真っ直ぐに前に進もうとする少女に目を細めた。
ドルステは部下だから、友人だから、それ故に何だかんだと言っても彼の言葉を突っぱねる事ができない。しかし彼女は違うのだ。
愛というものは、なんと複雑で面倒臭くて、こんなにももどかしく、矛盾に溢れており、しかしそれでいて何よりも強いのか。
(まだ……俺にはわからないもんだな)
唇を噛んだドルステにフェリチタはふっと柔らかく、気の抜けたような笑みを見せた。
「……安心してください。私、レイの所に行く気はありませんから」
「えっ?」
「私は、この無意味な争いを“終わらせに”来ただけです」
いつも気丈に振る舞う少女が、気弱そうに笑うのを見るのは青年にとっては初めてのことで、思わず彼女の腕を取った。そうでもしなければ、簡単に消えてしまいそうな気がしたのだ。
ドルステは言葉を区切りながら必死に語りかける。
「レイ様が貴女から目を離せない理由が少しわかった気がしますよ。いったい、何をしようと、しているんですか」
「……離してください」
「何を考えているか分かりませんが、貴女に何かあったら悲しむ人がいるんですよ!ルウリエも、俺も、あの森人の青年、そしてレイ様も───」
「離して!!」