騎士団長殿下の愛した花
「……レイ?どうしたの?」
びくりとして、その拍子に握り締めた右手の感覚に驚く。
「レイ?」
こちらを心配そうな上目遣いで見ているのは、大きな蒼空色の瞳をきらきらと輝かせ、白銀の長い髪を肩から背中に零した少女だった。右手で握っているのは、彼女の左手。
どうして。こんなに小さな頃の彼女を見た事はないはずなのに。だって彼女と出会ったのはつい最近の事で。
「いたっ、痛いよ、どうしたの?」
「あ……ごめん」
知らない間に強い力で握り締めていたらしい。慌ててぱっと手を離した。
「なんで離しちゃうの?手、繋ぎたいな」
無邪気に笑って再び手を取る彼女の声は、今より少し高くてあどけない。手も柔らかくて指の短い子どもの手のひらだ。
夢だ、幻想だ、と言うにはあまりにも鮮明で。
(これは、まさか……僕の……記憶……?)
徐々に違和感が拭われていく。ここにいるのは幼い頃の自分で、紛れもなく自分なのだ。知らぬ間にぽっかりと開いていた穴が埋まっていくのを感じた。
感情が幼い自分にリンクして、どうしようもなく心が震える。今の自分が忘れてしまった、鮮やかな色彩でピカピカと輝いて、思わずスキップしたくなるような、そんな感情が溢れて自然と顔が綻ぶのを感じた。
「花火も終わったし、もう帰ろっか。寂しいけど……レイがもっともっと強くなったら、2人で来てくれるんでしょ?」
(火薬の匂いは花火だったのか)
嬉しそうに笑う少女に何故か酷く『その姿を隠さなければ』という焦燥に駆られる。
「フェリチタ、フードちゃんと被って……っ」
「大丈夫だよー、もう暗くなってきたし、誰にも見えてないって」
あまり幾度も言うのは不自然だ。レイオウルはしぶしぶ口を噤んだ。
そうだ、思い、出した。
楽しそうに軽くステップを踏む少女を目で追いながら、レイオウルは唇を戦慄かせる。