騎士団長殿下の愛した花

(全部全部、僕のせいだ。この日僕が彼女を城から連れ出さなければ、僕はきっと、彼女を忘れずに済んだのに───)

記憶をなぞっているだけの自分は、出来事を変えることはできない。着実に時は進んでいく。

────暗、転。

「うふふあははは、やっと見つけました。まさか『聖女』がこれほど無防備に、ろくに護衛すらつけずに出歩いているとは!捕まえなさい!」

「レイ……やだ、離してよ!レイっ、レイっ!!」

見たことも無い、獣の耳に猛禽類を彷彿とさせる鋭い眼光の大男たち。子どもなど簡単に捻り潰されてしまいそうな大きな身体。噂に聞く、森人の姿そのもの。それが2人……いや、2体と言うべきなのだろうか。フェリチタの両脇を挟んで軽々と持ち上げている。

そしてそれらを使役しているのは比較的すらりとした体型の女の森人だった。

「人間が密かに育てているという聖女……お前の力は全て調べ済みです。こちらには優秀なスパイがいるので、人間の持つ情報は全てそのまま筒抜けなのですよ!人間がそれほどまでに秘匿しようとしたその力、人間ではなく森人の為に使ってもらいましょうか!」

「助けてっ、レイ!」

「……っ、フェリチタ!」

女ならどうにかなるかもしれない。そしてこいつが1番身分が高そうだ。そう思い不気味に笑う女の森人に護身用の剣を抜き飛びかかる。

しかしいとも簡単に素手で弾き飛ばされ、剣はがきん!と嫌な音を立てて地面に突き刺さった。城下町の道の材質は石だと言うのに、一体どれ程の力で飛ばされたのだろう?レイオウルは冷や汗が背中を伝うのを感じた。

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