騎士団長殿下の愛した花
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フェリチタはこの戦いを“終わらせる”ためにここに来た。
自分のせいで戦争が始まると聞いた時から、本当はずっと考えていた事だった。それでも足踏みしていたのは、昨日の夜も、いや夜が明けたって決心がついていなかったから。
……でももう、これしか方法が無い所まで追い詰められてしまった。
お互いにこの戦いが長引くのは確実で、そうなれば矢面に立って戦う彼が帰ってこられる可能性は限りなくゼロに近くなるから。
(彼の命を救う為に、私が、早く戦いを終わらせないといけない)
少女の一世一代の賭けは、途方も無く無謀。
勝算はあるかと自問して、フェリチタは引きつった笑みを浮かべた。……だって賭けるのは、この命そのものなのだから。
命は全て対等だが、しかしこの場に限れば、聖女──フェリチタの命が最も重い。フェリチタ自身もそれを理解している。
だから、この戦いを止めるには、本当に奇跡を起こすか。
もしくは……フェリチタが“消える”しかないのだ。
フェリチタは剣を引き抜いた。長い髪を束ねると、震える手で剣を押し当て肩の辺りでぶつりと断ち切る。
「───神様!見える?これが貴方が言った『陽に透け輝く銀糸』でしょ!『藍玉のような美しい蒼の瞳』もここにある!こんな目立つ私の事、見えないはずないよねえっ!」
左手で掲げ持ってもまだ地につきそうな程長い白銀の髪を陽の光に透かして、少女はぎりっと歯を食いしばる。
「本当は聞こえてるんでしょ!知らん振りするのはいい加減やめてよ、神様が私を聖女だのなんだのって言ったのに!それなら責任取ってよ!私に奇跡を起こせる力があるって言うなら、今奇跡を起こさせてよ!今だけ、本当にたった1回でいいの……お願い!私に彼を助けさせて!私から……彼の熱を奪わないで……!」