騎士団長殿下の愛した花
「これ邪魔じゃないの?綺麗な蒼の瞳なのに勿体無いな」
彼の声ではっと我に返る。
「いや、その……」
「お前、名前は?」
「……」
答えるのは簡単だ。でもまた……彼との関係は一からなのだろうか。いや、今や身分もこれ程に違ってしまったのだから、今だって王族のほんの気まぐれで、きっともう私たちが結ばれることは────
俯いたフェリチタの後頭部に、ぷっ、と吹き出した音が降ってきて、それはすぐに笑い声になった。あはは、といつか聞いた無邪気な笑い声。
訝しげな顔でゆっくりと頭を上げたフェリチタの顔を左手で逃がさないように掴んで、青年はその頬に音を立ててキスをした。
「なっ!なぁ……っ!?」
相手が王族ということも忘れてその腕を力一杯振りほどく。
(周りの目もあるっていうのに、何考えてるの!頭おかしくなっちゃったの!?)
「ごめんって。そんな顔しないでよ、我慢できなかったんだ。
それとも……まさかフェリチタこそ僕のこと忘れた?」
こちらを横目で見ながら悪戯っぽく微笑む。フェリチタはぽかん、と口を大きく開けた。
「…………フェリチタ、って……今、」
「言ったよ、フェリチタ……4年ぶりかな?」
片腕を大きく広げた青年に向かって歩を進める。1歩、2歩と覚束無い足取りで踏み込んで、そのあとはもう我慢できなかった。どしん、と音が立つほどの勢いでその胸に飛び込む。
「レイ……なの?……夢じゃない?」
「うん」
「……レイ!レイ、レイ……っ!本当に、レイだ……!!」
「遅くなってごめん」
「遅すぎ!」
「ごめんって」
レイオウルが酷く嬉しそうに笑って、フェリチタの唇に口づけを落とした。
と、そこでやっと周囲に気がついた様子で軽く頭を掻くと、代表とばかりにアンに向かい合う。