騎士団長殿下の愛した花
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婚約発表から1年、婚儀も終えて忙しさも一先ず落ち着いた。国政は概ね上手くいっていると言って良い状態だ。
少女と青年は芝生に座っていた。
白詰草が群生した広場。幼少期の2人が好きだった場所、思い出の場所だった。
「───また抜け出したりして、ドルステさんに怒られるんじゃない?」
フェリチタに言われ、レイオウルはその状況を想像したのか渋い顔をする。
「その時は……一緒に怒られようか」
「えー、もう何回目かな、やだなあ……」
フェリチタも苦い顔をしながら、手元の白詰草をぷちりと摘み取った。幾本も取っては器用に編み込んでいく。その手元を興味津々の様子でレイオウルが覗き込んだ。
「それなに?」
「ルウに教えてもらったの。花冠だって」
2つ作り、大きな方をレイオウルに、小さな方を自分の頭にのせる。レイオウルはそれに触れて嬉しそうに笑みを浮かべた。
「へえ、いいね、戴冠の時より立派かも」
「もー言い過ぎだよ」
くすくす、と笑いながらフェリチタは尚も手を動かす。
「それは……ブレスレット?」
「これはね……この子の分、だよ」
首を傾げた夫に、フェリチタは小さな小さな花冠を持ったまま───自分のお腹に優しく触れた。
ぽかん、と大きく口を開けて一瞬呆けた後、レイオウルは強く、しかし優しく……片腕で彼女を包み込むように抱きしめた。
「ああ、こんな、こんなに……」
言葉に詰まり、浅い呼吸を繰り返す。
「……幸せな事があったんだ……」
こっそり鼻を啜ったレイオウルに、それに気がついたフェリチタは花が咲くように笑って囁いた。
「ずっとずっと────私はきみを愛してるよ」
―了―