騎士団長殿下の愛した花
「……ドルステ、こいつは任せた」
「はーい、そりゃいいですけど、団長様こそやり過ぎないでくださいよね、っと!」
青年の横でじっと黙っていたもう1人がヤーノに斬りかかる。ヤーノがこちらに視線をやるが、ドルステという人物はなかなかに手強いらしく確実に引き離されていく。
(私ひとりの力なんて……ううん、最後までって自分で言った)
「僕はお前に危害を加えたい訳では無い。黙って投降してくれないか」
「……私が女だから?」
「いや、そういうわけでは……」
フェリチタは歯噛みした。戦場で何を甘いことを言っている。これだけ同胞を傷つけられて自分だけのこのことそんなことできるはずがないではないか。
わざと耳障りな金属音を立てながらサーベルを引き抜いた。儀礼用のものだけど、斬ることぐらいできるはずだ。
「お前じゃない。フェリチタ=シャトヤンシー、私の名前」
青年は困ったように微かに眉根を寄せて剣を構えた。
「僕は、レイオウル=オ=ルミナント=クリンベリル」
(………………レイ、オウル?)
一瞬、ぐわんと頭の揺れるような感覚。
何故?
いや。これは……きっと、驚き。
の、はず。
(クリンベリル……って、じゃあこの人は、人間の王族?いや、そんなことは関係ない)
微かに剣先が震えているのに気がついて、フェリチタはかあっと頭に血が上った。それを誤魔化すように、「やぁ!」と声を上げて斬りかかった。
彼女の裂帛(れっぱく)の気合が込められた斬撃を、レイオウルはいとも簡単に受け止めた。彼は依然として困ったような表情をしている。