騎士団長殿下の愛した花

「何か喋ってはいかが?森人は口がきけないのです?」

挑発だろうが、生憎それほど馬鹿ではない。何を話せというのかとフェリチタが黙っていると、お姉様と呼びかけた方──おそらく妹が声を荒らげた。

「その蒼い瞳、腹が立ちますわね!私を見下していますの!?」

「……いえ」

「〜ッ!ただの捕虜のくせに!自分の今の立場を自覚したらいかが?」

自覚している。しているが、どうしろというのか。跪けとでも?

確かに人間からすれば、森人は憎い存在だろう。しかし自分が何か気に触ることをしただろうか。何故これほど憤っているのだろう。

「おかしいですわね、森人は血の気が多いと聞いていたのですけれど。これではあなたの方が頭が弱そうですわよ、リーメイ」

「お姉様……!だってこの女が、レイオウル殿下のご寵愛を受けていると騎士団員達が言っていたではありませんか!私なんて、何度もお願いしてやっと数回お会いしたことがあるだけですのに……」

なるほど、とフェリチタは思った。

そう考えられるほどには冷静だった。だから黙っておけばよかった。姉はそれほどフェリチタに興味は無く、妹を宥めていたのだから。それなのに気がつけば口が動いていた。

「寵愛?そんなものは頂いておりません」

ただ捕虜の面倒をみているだけだ、と。勘違いするな、と。

それは自分に言い聞かせていたのかもしれない。フェリチタは、生意気な、とこちらを睨みつけるリーメイの瞳に自分の姿を映していた。

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