騎士団長殿下の愛した花
だからフェリチタはルウリエの額にとんと伸ばした人差し指を当てただけで肩を竦めた。
「もう全く、要らないことしたら駄目だからね?」
冗談ぽく言って微笑む余裕まであるのは、大事に至る前にあの人が来て助けてくれたから。
もう一度深々と頭を下げたルウリエが、依然として申し訳なさそうな様子ではありながらおずおずと口を開いた。
「……何だかフェリチタ様、お顔が柔らかくなられましたね」
「そ、そう?」
「ええ、やはり慣れない所に急に連れてこられて、どこかいつも緊張していらっしゃるようでした」
無意識にレイオウルの方を向いていたことに気がついてぱっと顔を背ける。その背にたった1度だけ、くすりと軽やかな笑い声が降ってきた。
フェリチタはこっそりと目を瞬かせた。
笑い声を聞いたのは……初めてだ。
予想と違う、いつもの厳(いかめ)しい顔に似合わない、子供っぽい明るい笑い声。
「僕もそう思うよ。今まではずっと張り詰めた顔をしてたから。彼女達に会ったのは災難だったけど、気分転換になったなら良かった」
……別に、散歩が気分転換になった訳じゃないもん、とフェリチタはほんのちょっぴり頬を膨らませた。
自覚はないけれど、もしそんなに変わったのだとしたら、不本意ながらそれはきっとレイオウルのお陰なのだろう。
でもそれを認めるのはやっぱり癪で、素直になれるのはまだまだ先になりそうだった。