騎士団長殿下の愛した花
鞘から引き抜き、構える。レイオウルを見据えると、戦場で見(まみ)えたあの時を嫌でも思い出す。立場を思い出させようとしているのか。自分達の間に蟠る、確かな隔絶を。
(どうしてこんな事を?)
胸の内で尋ねる声は届くはずもなく。
レイオウルの瞳がこちらを一際強く見据えたと思った瞬間、フェリチタは地を蹴った。
金属のぶつかる耳障りな音が響く。フェリチタは歯を食いしばって、レイオウルは涼しい顔のまま、それでやっと均衡が保たれる。
「……っ」
どうにもならないと悟ったフェリチタはサーベルを前に押し返して距離を取る。レイオウルは追いかけてくる様子はなく、またふたりで見つめ合う。
(意味わかんない意味わかんないっ。こんなの、早く終わらせてしまいたい……っ)
そう思うのに、なぜか彼の目を見れば踏み込んでくるタイミングがわかってしまって、次に剣を振るう方向がわかってしまって、お互いに決定打には至らない。
もちろんレイオウルがフェリチタにわかりやすいようゆっくりと身体を動かしているのもあるのだろう。でも、それを差し引いても不思議な感覚だった。まるで、前も彼とこうして模擬戦を何度もしたことがあるような──また感じた、既視感。
ぼうっとしていたフェリチタのサーベルがレイオウルの剣の腹を滑る。我に返ったフェリチタが止める間もなく、勢いの付いた刃はレイオウルの肩を薄く裂いた。それは皮肉にもあの時彼女のサーベルが跳ねた場所と同じで、違うのは彼の身を守る甲冑が無いということ。