騎士団長殿下の愛した花
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フェリチタは鈍い動きで気だるそうに身体を持ち上げた。捲れる掛け布団にどうやらベッドに寝かされていたらしいと気がつく。窓の外は随分暗い。ぼやける目で時計を見ると午前3時少し前をさしていた。
膝元にぺたっと落ちてきたのは濡れたタオル。持ってみると大分温かった。
机の上には換えのための水桶、薬。そして頬の傷のための包帯。誰かが看病してくれたのだろう。おそらくルウリエか。
「熱……かな」
まだ怠さはあるが、動くのに支障はない。足を動かそうとして、フェリチタはやっと気がついた。
自分の太腿辺りで突っ伏して寝ている、レイオウルに。
「ん……」
フェリチタが動いたせいか、もぞもぞと身じろぎする。暫くの後、丁度いい所に落ち着いたのか満足したようにまた寝息を立て始めた。
「ちょ、くすぐったぁ……っ」
思わず漏らした声に再び身じろぎされて、フェリチタは声を出さないように自分の口を両手で強く押さえた。
(え?……ええ!?)
まずは、落ち着いて状況を整理しよう。
多分、あの後自分は倒れたのだ。怪我というよりは熱で。部屋に運んでくれ、看病してくれたのは……殿下だと、いう……
(何だか、捕虜を甘やかし過ぎじゃ?)
抑えられない甘い疼きと、自らの立場からの鈍い疼きがフェリチタの胸をぎゅうっと締め付ける。
そろりと指先を伸ばす。震える指先で、レイオウルの金髪にそっと触れる。ずっと触りたかったこの髪。我慢できずに指に絡めると、逃げるようにするりと解けた。思っていた以上に柔らかくて、艶々で、いつまでも触っていたくなる。