騎士団長殿下の愛した花
ぼわっと顔が熱を持つ。熱がぶり返したんじゃないかと思うほどだ。恥ずかしさに顔を真っ赤にして呻くことしかできないフェリチタに、レイオウルの小さい声。
「あの、フェリチタ。とりあえず頭の上の手を退けてくれると助かる」
フェリチタがレイオウルの頭にやっていた手を慌てて挙げた。
「はっ!ごめん私の太腿に顔押し付けさせちゃってた!」
「いや、僕の方こそ……そんな改めて言わないでよ……」
布団越しとは言え感触はわかっただろう。暫く顔を赤らめた2人はもじもじとしていたが、ふとレイオウルが手を伸ばしてフェリチタの頬を包帯の上からそっと撫でた。
「ごめん。顔に怪我をさせてしまうなんて」
「ううん。どうせすぐ治るから、いいよ」
「そういう問題じゃない。こんな綺麗な、顔、に……」
はっ、とレイオウルが素早い動きで手を離す。
「何でもない。何でもないからな。とにかく、お前は無理をするな。ルウリエの話だと慣れない環境の疲れとストレスと怪我と、色々と原因があるってことらしいから」
「迷惑かけて、ごめんなさい。あと……その腕の怪我も」
唇を噛み締めるフェリチタに、レイオウルが軽く首を振った。
「迷惑なんかじゃないし、こんな怪我大したものじゃない。
……だから嫌だったんだ、お前はすぐ謝るから。僕はしたいことしかしないから安心しなよ。困ってる人がいたら手当り次第助けるようなお人好しじゃない」
相変わらずオブラートに包んだような物言いだけど、それでもときめいてしまうのが悔しくて、フェリチタはその胸の高鳴りを誤魔化すようにあはは、と笑った。
「ほんと、きみは素直じゃないなぁ。要するに、『僕は望んでお前のためにやったんだ』って事だって思っていいの?」
「まあ……そうだね。ってちょっと待って、今の僕の真似?」
似てない、と唇をほんの少し尖らせるレイオウルの顔が初めて見るもので、フェリチタは笑いながらその表情を必死で目に焼き付けた。この関係が終わって、彼と離れてしまった後、絶対に忘れないように。彼は随分、色々な顔を見せてくれるようになった。