騎士団長殿下の愛した花
飄々とした様子で肩を竦める青年の黄色い目をレイオウルが正面から覗き込む。
「森人達は、本気なんだ?」
「……『フェリチタ』を早く俺たちの元に帰して頂ければ、それで済むんですが」
その視線から逃れるようにヤーノが両手を上げて薄く笑う。それをレイオウルは顔色を変えず眺めて、つまらなそうに頬杖をついた。
「お前、そういうの性に合わないんじゃない?そんな風に話を進める必要は無いからやめなよ」
「……は……?」
「早く本当の事を言ったらどうかな。『どうあっても俺たちは戦争をおっ始めるつもりなんだ』って」
目を見開いたヤーノが暫くその顔のまま固まって、唇だけを動かして「…………なるほど」と呟いた。幾度か頷くと、どさりと椅子の背凭れに身体を投げ出した。
「あーあ、なんだよそうか……それなら話は早いですよ。せいぜい2週間で俺たちを迎え撃つ準備でもしてください。そして戦争が始まった暁には、どーぞ俺を殺してください。人間様方にとっては腹立たしい限りでしょう、思う存分いたぶって良いですよ」
レイオウルは応えない。
「話は終わった。行こう」
立ち上がったレイオウルに続いて鈍い動きで腰を上げた。
「ヤーノ……」
何か彼の力になる事ができればと思って来たというのに、自分は彼の名前を呼ぶだけで何か励ましの言葉すらかけられない。
「ありがとな、フェリ。会いに来てくれて」
(それなのに……)
心を読んだようなヤーノの言葉と微笑みに、フェリチタは唇を噛んだ。
また来るからと、どうにか笑い返したフェリチタにヤーノが頷いた。
背を向けて歩き出し、フェリチタを先に部屋から出した後、何気ない風にレイオウルが振り返った。
「ヤーノ、だっけ。自分のこと殺せって言ったよね?
わかってるくせに『フェリチタ』が悲しみそうな事言うのは止めてくれるかな」
そっか、と。
扉を閉める音に紛れたヤーノのその声は、安心したようで悔しそうで、フェリチタが今まで聞いたどの声よりも弱々しかった。