騎士団長殿下の愛した花
そればかりでなく、戦うことのできないフェリチタに母親は役目を与えてくれたのだ。
人間達と戦う森人の戦士たちを鼓舞する『聖女』という役目。
(そう、お母様のために働かないと……)
壁にかけられた時計を見ると、アルルはフェリチタを立たせ、裾を整えた。後ろの長い、簡素なデザインの白いドレス。
「『礼拝』が始まりますから急ぎましょう」
「うん……」
頷いたフェリチタは、『礼拝』の内容を思い起こして足が止まった。毎朝しているからといって、慣れるものではない。
あんなことをする必要が一体どこに──
(もう、やだ)
黙りこんだフェリチタをどう思ったのか、アルルは回り込んできて彼女の肩をつかみ、瞳をのぞきこんだ。
「フェリチタ……大変なお役目を任せて本当にごめんなさい。でも、あなたの力が必要なのです……」
そう小さく呟きながらそっと視線を逸らし瞳を震わせる母親を見て、フェリチタは激しい自己嫌悪に陥った。
(私のせいで、お母様を困らせてしまっている……)
「……わかってる、お母様。私こそごめんなさい……」
どうにかそんな言葉を絞り出したフェリチタに、アルルは先程の様子はどこへ消えたのか、にっこりと微笑んだ。
「良いのです。あなたはまだ17歳。成人にはあと少しあります。それまでにしっかりとあなたの役目をわかってもらえれば」
「う、ん」
フェリチタは今度こそはっきり頷いた。自分の感情に蓋をした。
そうでもしなければ、母親に募る不信感と、肉親に対してそんな感情を抱く自分への嫌悪感で頭が歪むような思いがしたから。