騎士団長殿下の愛した花
「ていうか別に来なくたって良いんだよ?」
だからフェリチタは爪先を見つめながら憎まれ口を叩いてしまったのだが、すぐにふっと柔らかな笑い声が彼女の後頭部を撫でた。
「森人のお姫様の監視は僕の仕事なんだから、来ないわけにはいかないよ」
ゆっくりと視線を上げると、弧を描いた琥珀色の瞳がこちらを覗き込んでいた。当初の彼からは想像もできない優しい冗談に鼓動が変な音を立てる。
「もーっ何言ってんの……ほら、早く行かないとでしょ!」
苦笑するレイオウルを部屋の外に押し出し、背中で扉を閉めたフェリチタはそのままぺたりとしゃがみ込んだ。
自分は部屋に籠るだけで何もできない。立場的にも何もする訳にはいかない。ここでじっとしているのが自分にとっても周りにとっても最善。
わかっている、わかっているけれど。毎日忙しなく動き回る人々を見ていると、どうしてもやるせない気持ちになる。
きっとレイオウルには気づかれているんだろう。だから気を遣って顔を出しに来てくれるのだ。
来なくていいと、さっき言ったのは本心。でも、本当は会いに来てくれることが凄く嬉しい。姿を、顔を見れるだけで十分。
でも。
「私にも何かできないのかなぁ……」
少女は感覚の無い獣耳に触れ、膝に額を擦り付けた。