騎士団長殿下の愛した花
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フェリチタの長い白髪が風に煽られ激しく靡く。頬を叩く顔の横の房を押さえながら目を細めた。
「本当に大丈夫なの……?」
色々と。
そんな心配を吹き飛ばすようにレイオウルは明るく笑う。
「何も心配しなくていい。ほら、見て。綺麗だよ」
レイオウルが知らず下がっていたフェリチタの顎を指先で優しく持ち上げた。
「クリンベリル城はね、国中を隅々まで見渡せるようにって国の一番高い土地に建てられたんだ」
レイオウルはフェリチタの視線まで膝を折り腰を落とすと、彼女の視線をなぞって指をさす。
ぐるりと広がる、色とりどりの屋根が印象的な町並み。見える限りずっと向こうまで同じで、国民たちの暮らしぶりにそれほど差がないのだろうと推測される。
全ての屋根を順々に、平等に同じ色に染め上げながら、ゆっくりと太陽が沈んでいく。
「……本当に綺麗だ」
そっと吐息を零すレイオウルの横顔も同じ色に染まっていく。
明るく瞳を灼く橙、眩く煌めく黄、柔らかく包み込む朱、混ざりゆく桃色、妖しく耀く紫、思考を沈める青、目を惹き付ける群青、全てが入り交じり、重なり、何れの色でもなくなって──やがて暗闇に。
今まで見たどの空よりも、ずっと美しい宙(そら)だった。