騎士団長殿下の愛した花
夕日を照り返す白皙の頬も、桜色の小振りな唇も、伏せられた長い睫毛も、風に煽られて柔らかく花弁のように舞う白銀の髪も、そしていつも少年の目を惹き付けてやまない美しい宝石の瞳も。隅々まで手入れされ、彼女が王城にやってきたときよりも更に魅力的になっている。
ただの町娘だった頃の面影はもう殆ど残っていない。憂いに満ちた面差しで少年を見つめる少女は神秘的な美しさで、本当に聖女のようだった。それが良い事なのかどうなのかは、彼女自身にしかわからないけれど……と。
綺麗だと思ったからではない。彼女の表情と言葉に何も言えなくなった少年は、横に立って彼女が見ていたものを目で追う。
「……鶏?」
「飛べないように羽根を切られて、もうここで一生を終えるしかない。私がここから逃がしたとして、この子達は生きていける?もう野生には帰れない。逃げる羽根を喪ったこの子達は、きっとすぐまた違う人に捕まって違う場所で家畜として生きるだけ……」
感情の無い声で淡々と呟いていた少女の大きな目が、再び少年を視界に入れた途端に潤んだ。
「レイ……っ、私……やだ……っ」
文にならない単語の羅列は、間の言葉を推測するしかないけれど。
少年はぎゅっと少女の小さな体を抱き締めた。彼女の体はすっぽりと彼の腕の中に収まる。安心させるように手を握り、頭を撫でる。
彼女は本当は、ただの泣き虫の女の子なのだ。この数年、ずっと少女を見ていた少年にはそれが誰よりもわかっている。