騎士団長殿下の愛した花

でも。自分だけを頼りにして、自分だけに本当の姿を見せてくれることに自分が少なからず優越感を感じていることに気づいていた彼は、苦い気持ちを抱いていた。

自分が彼女に抱いている気持ちと、彼女が自分に抱いている気持ちは似ているようでいて、おそらく決定的に違う物なのだろうとわかっていたから。

少女は純粋に自分に好意を持ってくれている。だが、自分のこの気持ちは、相手に見返りを求めるもの──恋心だ。

涙を拭って顔を上げた少女が目を細めてにこっと微笑んだ。

「レイ、あのね、実は私も剣術を習い始めたの。護身術だって。算術も芸術もぜーんぶすぐ私はレイを追い抜いたんだから。うかうかしてると、そのうち剣でもきみを追い抜すんだからね!」

少年は少女の手を握った手にほんの少し力を込めた。自分よりずっと細い指、小さな手のひら。きっともう自分たちの体格の差は開いていく一方なのだろうと、2人ともわかっていて。

それでも時間の流れに変わっていく何かに抗うように笑い合う。

「それは困るなあ、負けないように頑張らないと」

少年はわかっていた。きっと剣術で抜かされることはないのだろうと。それでも少女の言葉に軽口を叩く。


自分は第二王子で、順当に行けば兄が国王になる。だから将来も大した権力が持てるとも思えない。賢者や神官になれるほど特別頭が良いわけでもない。だから。

自分の力で彼女を守るためには、自分自身が強くならるしかないのだ──と。

少年は皮が裂けてまめができ始めた己の手で、綺麗な彼女の肌を傷つけないようにそっと少女の手を包んだ。

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