10年愛してくれた君へ
10.教育実習生
教室がざわついている。特に男子だ。
それを冷たい目で見ている女子もちらほら。
「女の教育実習生来るからって、ソワソワしすぎな」
その様子を見ながら冷静に呟く河西くん。
『あんたには藍がいるもんね』と、冷やかす充希を私は恥ずかしくなり後ろから軽く叩いた。
「よーしお前ら席につけー」
教室に入って来た黒山の顔は、いつもより若干緩んでいる気がするのは気のせいなのだろうか。
「あいつもデレてるよ、藍」
「絶対そうだね、充希」
すると黒山は一度咳払いをし、ふたたび口を開いた。
「えー、もうお前らの耳には入っていると思うが….今日からうちのクラスに1週間、教育実習生が来る。じゃあ、こっちへ」
クラスの視線がドアの方へと向けられる。
姿を現した"その人"に、息がつまりそうになった…
ゆるく巻かれたまだらのない綺麗な茶色の髪を後ろで結び、グレーのスーツを身につけている。
『芸能人です』と言われれば、誰もが納得するであろうその容姿。
あれって….春兄の元カノの…
このクラスで違った感情を抱いているのは恐らく私だけだろう。
教壇の前に立つ"その人"にテンションが上がっている男子や、『綺麗じゃん』と、見惚れている女子。
様々な反応が飛び交う中、ただ一人、私だけ違う空間にいるようだ。
「じゃあ、自己紹介を」
「はい。みなさんこんにちは!高橋南と言います。大学では英語を専攻していて、みんなに教えるのも英語になると思います。1週間という短い時間ですが、たくさん思い出を作れたらなと思います。よろしくね」
黒板に名前を書き、軽く自己紹介をした後満面の笑みを浮かべる。
男子は『南ちゃ〜ん!!』とか、まるでアイドルのコンサートのように騒ぎ立てた。
"ミナミ"…
やっぱりそうだ、この容姿、この名前。
春兄の元カノの、ミナミさんだ。