10年愛してくれた君へ
「ねぇねぇ、春兄?」


「ん?」


「…春兄は、同時期に二人の人にドキドキしたことって…ある?」


春兄は目を丸くし、少し驚いた顔をした。


そりゃそうだ、私がこんなこと聞くなんて、珍しいにも程がある。


「急にどうした?」


「んー、ちょっと気になって」


「ドキドキって、恋愛的な話か?」


恋愛…


私の春兄に対するドキドキって、そういうこと?


いやいや、私は河西くんと付き合っていて、春兄はお兄ちゃんみたいな存在で。


だけど、春兄の口から"恋愛"という言葉を聞いて、少しそれを意識してしまった。



「う、うん、多分」


「あはは、多分って、藍自分で聞いといて。んー、そうだなー…」


少し考えた後、バツが悪そうに言った内容が、私にとってはとても意外なものだった。



「好きな子がいるのに、他の人と付き合っていたことは…ある」


「えっ…?」


春兄ってそういうイメージがない。


一途で彼女を大切にする、そんな人だと思っていた。


でも、春兄のこの言い方…その裏に何かが隠されているような、そんな気もした。


それは私なんかが触れてはいけないような儚く切ない純な気持ちなのか、私の知らない春兄の知りたくない一面なのか。


どちらにせよ、そう話す春兄の目はどこか悲しげで、見ている私の胸の奥がキュッと締まるように痛む。
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