10年愛してくれた君へ
南さんは何かを思い出したように口を開いた。


「もしかして、ひとみの好きな人の彼女って…」


そう言うと、高橋さんの顔はみるみる赤くなっていき、そして俯きながら小さく頷いた。


高橋さんの好きな人、それは紛れもなく河西くんのことだろう。


「まぁ、彼女がいようと好きになるのは自由だし、頑張りなさい」


南さんは、高橋さんの肩を叩いて職員室へと姿を消した。


二人取り残された、この状況。


そして、沈黙。



「あ、あの…高橋さん?」


気まずくなり、先に口を開いた。


すると高橋さんは、目線を上げて今度は大きく頭を下げた。


「ごめんなさい!」


「え?」


急に謝られ、てんやわんやだ。


何に対しての謝罪なのか、よく分からない。


「まだ、河西先輩のことが好きなのは事実です。お二人のデートを邪魔するつもりで遊園地に行ったのもそうです。正直、河西先輩の彼女から、河西先輩を奪ってやろうって思っていました」


少しずつ明らかになる、高橋さんの気持ち。


私は意外と落ち着いていて、黙ってその話を聞いていた。


「先輩の彼女に意地悪してやろうとも思っていました。でも…携帯を無くした私に必死になってくれたり、私の我儘に黙ってついて来てくれたり。なんか、『彼女いい人じゃん』って思っちゃって…自分がやっていることがバカバカしく思えてきたっていうか、罪悪感というか」


「高橋さん…」


「だから、ごめんなさい。でも、この恋はやめられません」


…だからか。


そういう気持ちがあったから、気まずくなって学校ですれ違っても目を逸らされていたのかな?
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