10年愛してくれた君へ
春兄と南さんがどこへ向かったのか、会う目的は何だったのか、それが気になったまま河西くんと帰っていた。
「なぁ鵜崎?どうしてあの二人…」
河西くんの声掛けに、私はようやく口を開いた。
「実は、あの二人、昔付き合っていたらしいんだ」
「え、それまじ?」
「うん。前に二人が一緒にいるところを見て、春兄に聞いてみたら、元カノだって言ってた」
「そんな人がうちのクラスに…凄い偶然だな」
あってほしくない偶然だ。
最近の私はどこかおかしい。
春兄のことで、ドキドキしたり胸が苦しくなったり、まるで…
「…っ」
「鵜崎?」
まるで私…春兄のことが、好きみたいじゃん。
「鵜崎、どうした?」
「えっ、あぁ…」
「おまっ、泣いてんのか!?」
河西くんに言われて初めて気付いた。
自分の頬を伝う涙に。
「おいどうしたんだよ!何で…っ」
何かを察したのか、それ以上何も聞いてくることはなかった。
河西くんにそっと抱きしめられ、その胸で私は泣いた。
河西くんのことが好きなはずなのに、違う人にドキドキしてしまっている。
こんなこと…ダメだよね。
何も言わず、ただ優しく抱きしめてくれている。
私はこのままでいいのだろうか。
"何か"を決断しなくてはいけない日が来るはずだ。
「やっぱ…勝てねぇよな」
ボソッと小さく呟いた河西くん。
顔を上げると、河西くんは悲しそうに笑った。
「いや、何でもない」